疫学(えきがく、Epidemiology)は、個人ではなく、集団を対象とした、疾病の秩序ある研究である。疫学は、病気と怪我の頻度、そしてその分布に影響する因子を対象とする[1]。
ただし、「集団を対象にする秩序ある研究」という部分以外については諸説あり、国際的な合意は得られていない。
医学部、教育学部や経済学部等の幅広い学生に勉強されている。手法として統計学を多用する。
国際疫学学会の定義は「特定の集団における健康に関連する状況あるいは事象の、分布あるいは規定因子に関する研究。また、健康問題を制御するために疫学を応用すること」である[2]。
他の定義の例として、「疫学とは生物集団における病気の流行状態を研究する学問」がある。すなわち、ある一時点/一期間での、ある一集団において、ある特定の病気が流行した場合、その流行の原因を調べ、その原因を除去することにより流行そのものを制御(終熄、予防)するための学問である。別名「流行病学」。
「疫学は人間集団における病気の発生に関する学問」だとする定義がある[3]。
また人間以外にも拡張した説としては、「疫学とは病気の発生に関する学問」だとする定義がある[4][5][6][7]。
Wikipedia英語版 (22:05, 3 January 2009)は冒頭定義で次のように述べている。
" | 疫学とは集団における健康と疾患に影響を与える要因に関する学問であり、公衆衛生と予防医学への基礎と論理を提供する。公衆衛生研究の基礎的方法論とされ、疾患への危険要因および最適な治療方針決定への実証的な医療(EBM)として高く評価されている。伝染性および非伝染性の病気を含んだ疫学者の研究範囲は突発的流行疾患の調査研究から、研究計画、データ収集と解析、統計的モデルの考案による仮説検定、およびそれらの結果に基づく論文作成と、査読付き学術雑誌への投稿に及ぶ。疫学者は多くの学問分野を利用する。たとえば、疾患プロセスを理解するために生物学を利用し、危険因子の近因と遠因を探るために社会学と哲学を利用するのである。 | " |
疫学的研究では、分析的手法として概念的な単位を微視的なものではなく生物一個体に置く。すなわち、集団における病気を持つ個体の数を測定することにより、流行状態を頻度(有病割合や発生率など)として数量化する。
集団生活を営む代表的な生物は人間であるため、疫学は人間集団に流行する病気の制御に用いられることが多いが、人為的に集団生活を営む動物(例えば家畜、産業動物)に流行する病気にも適用される(ただし、集団として捉えることが困難な野生動物に疫学は適用し難い)。したがって、疫学的手法は医学、獣医学の分野において多用される。
歴史的に見ると、はじめに疫学は急性疾患(とくに感染症)の流行の制御に対して大きな成果をあげた。この成果に伴い社会の疾病構造が急性疾患から慢性疾患(とくに生活習慣病)に変化したため、現在では長期間にわたる流行形態をとる慢性疾患の制御の研究にも疫学は用いられている。また、社会の高齢化に伴い、病気の流行現象ではなく、逆に健康の流行現象を対象とする疫学的研究も多くなった。この意味において「疫学(疫=疫病、はやりやまい)」と言う用語は不適切なものとなってきている。
疫学は疫の字に病垂(疒)が付くのため医学であると誤解されているが、英語ではEpidemiology(epi; upon広範な -demos; people人間の -logos; study学問)と書き、人間集団に対するあらゆる因果関係の確認に用いられる学問である[8]。
疫学の始まりはジョン・スノーのコレラ研究にあると言われる。コレラのイギリス侵入(1831年10月)当時、コレラは空気感染すると考えられており恐れられていた。しかしスノーは同じ流行地域でも患者が出る家は飛び飛びである等の知見を得て空気感染説に疑問を持ち、「汚染された水を飲むとコレラになる」という「経口感染仮説」を立て、疫学的調査と防疫活動を行った。
[編集] ブロード・ストリート事件
1848年、コレラ患者が多量発生した地区にて患者発生状況の調査を行い、ある井戸が汚染源と推測、あてはまらない事例について調査を行い、「汚染された井戸水を飲んでいる人は罹る」と結論した。行政がこれに従い問題の井戸を閉鎖したため、流行の蔓延を防ぐ事が出来た。
[編集] 水道会社給水範囲とコレラ患者発生との関係の調査
ロンドンの水道会社はテムズ川から取水していたが、当時のテムズ川は汚濁がひどく衛生的とは言えなかった。スノーは患者発生マップと各水道会社の給水地域との比較照合を行い、特定の水道会社の給水地域においてコレラ患者が多発していることを突き止めた。同社の取水口は糞尿投棄の影響を受ける位置にあったという。
これは1883年にロベルト・コッホがコレラ菌を発見する30年前の事であった。
スノーの疫学的研究は、感染源・感染経路の解明という疫学的手法により、生物学的要因(病原体など)が不明であっても、社会的要因、状況の観察から、感染症流行を止めることができることを知らしめた。現代の疫学研究も、本質的にはスノーの研究と変わりない。
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